オルトレキシアの夢 2

白けた空の下、大江さんを抱え、大きな河川を横目にしながらひたすら真っ直ぐの土手を走る。


この子を何とか助けたい。


病院の場所は全く知らない。
だけどこの土手を突き進むしか他に道はないと分かっている。


絶望的に真っ直ぐで、近道も抜け道も許さない土手。


急がないと彼女はこのまま死んでしまう。


スピードを上げようとしたその時、左手前方に3人の男女が道端に腰かけ、河川に背を向け町を見下ろしているのが見えた。ジェットのようにどんどん距離が縮まって行く。


高校の同級生達だ。  


そして声が聞こえた。


“あいつさ、わざと食べんでああなったらしいで”


大江さんの事を言っているのだと直感で分かった。


呆れられたんだと。
私は泣きそうになる。


「わかるで。食べられんようになってくるねんな!」


聞こえていないように、聞こえているように、祈った。


振り返る事なく私たちはひた走る。


激しく揺れる腕の中、亡骸みたいな大江さんが、小さく、ゆっくり頷いていた。


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目が覚めたら、私は、20代後半の一人のニートに戻っていた。


“教室・女・倒れる・「あいつさ、わざと…」” 


記憶が新鮮なうちに枕元のノートにメモをとり、スケッチを描く。
 

(食べることばっかり考えてるからかな、今日は比較的普通のん見たな)


この時はまだ、この夢の本当の意味を分かってはいなかった。


自分が拒食していたと知ったのは、それから何年も後のことになる。